アルバート・サムレス
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アルバート・サムレス (1987年アメリカ、ロサンゼルス生まれ)
2012年にカリフォルニア芸術大学を卒業後、ロサンゼルス沿岸の海流や、カンボジアの強い日射しにより時間の経過とともに素材が変化する絵画など、自然界の法則や動物の習性を利用した作品を制作している。近年の大規模なプロジェクトには、ニューヨークの全ての地下鉄と、世界中のほぼ全ての空港で流れるアナウンスを担当する声優のキャロリン・ホプキンスに詩の朗読を依頼したサウンド・インスタレーション『The Voice』を「シンガポール・ビエンナーレ2013」で発表したほか、本年秋に開催される「モスクワ・ビエンナーレ」では、アフリカ産のヤシの木に留まった大型インコがニュースを口ずさむ『Divine Intervention (An Act of God)』を構想している。ロシアでは、ペットとして飼われることが多いこのインコは、血統を遡るとアフリカに行き着く。野生時には止まり木だった故郷のヤシも、現在のインコにとっては、違和感のある環境となる。インコは、本ビエンナーレ会期中、美術館に生息する予定。東京・山本現代で行われる2人展では、天然染色の藍染め、東京の雨、米を使った作品を構想している。
http://albertsamreth.com/
主な展覧会歴 (抜粋)
・2012 「Non-Profit, Self-Titled」 (カル・アーツ/アメリカ)
・2012 「Bring Your Own Beamer, TRANSMISSION」 (MoCA/カリフォルニア)
・2013 「...Know Know」 (SA SA BASSAC/カンボジア)
・2013 「The Joy of Fear」 (The Impermanent Collection/カリフォルニア)
・2013 「Poster Problem」 (Otras Obras/メキシコ)
・2013-2014 「シンガポール・ビエンナーレ 2013」 (シンガポール美術館/シンガポール)
滞在期間:2014年5月16日-8月8日まで
助成機関:バッカーズ・ファンデーション
展覧会: 「The BAR Vol.7 アルバート・サムレス(アメリカ)とゴル・スーダン(ケニア)による新作展」(2014年7月12日(土) - 2014年7月26日(土)、 会場:山本現代)
アーティスト・インタビュー:Download(PDF / 2.3MB)
展覧会報告印刷物: Download(PDF / 1.9MB)
Shock and Awe (2013)
Fireworks organized ten years after the initial shock and awe campaign in Iraq on the night of 19 March, 2013.
Pacific Ocean Water Colors (2014-)
A painting shown in progress holding natural pigment dyes on the Pacific Ocean in Malibu, California, 2013.
Continuity Drift, 2012
Abstract grafiti made with colored smoke bombs at the site of Robert Smithson's Spiral Jetty.
A Millions Years Can't Be Wrong (Parentheticals), 2012
Civilization (2013), croissant, ants
Civilzation (2011), birdseed, pigeons
《アーティストからの滞在の感想とコメント》
質問1:バッカーズのレジデンスはどうでしたか?
「今回このような機会をいただき、日本の文化を体験させてもらい、バッカーズの皆さんおよびAITのメンバーに感謝してもしきれない気持ちでいます。東京へ来たのは初めてでしたが、こんなにも手厚い支援のもと、集中して活動ができたことをとても幸運に思います。
なによりもまず、レジデンス(雪谷ハウス)そのものが、自分がこれまで住んだ住居の中で最も恵まれたものでした。そこは、物事を考え、読書をし、英気を養い、そして何より、心からくつろげる場所でした。
山本現代での展示においても非常に恵まれていました。準備から開催にいたるまで、アーティストの立場が保証され、肯定され、祝福する空気がありました。私達の作品と、この展示に関わった全ての人の関係が一つの場に集まるのを見るのは、とても嬉しかったです。
滞在中、教育的な活動に関われなかったことは少し悔いが残りました。これは、自分が日本語ができないというハンデから、そもそもAITのトークに参加できなかったことが理由でした。また、子供とアート作りをする日に、日本を発たなければならなかったというスケジュール面での制限もありました。
もしもプログラムに何かを求めるとしたら、滞在期間を延長してもらうことですが、それは現実的ではないでしょう。ですが本プログラムは、バッカーズとAITが作り上げているカルチャーを、今後私が行く先々で、そして出会う一人ひとりとの関係において、再現したいと思わせてくれました。このプログラムのように、アートを学び、アートを讃えるエコ・システムを構築することができれば、きっとより良い世の中になると思います。」
質問2:滞在で最も印象に残った経験は何ですか?それは制作にどのように影響していますか?
「何かひとつの体験をあげるのは難しいですが、この夏の間、私はアーティストとして認められていると感じることができました。これは、AITのスタッフが私と接する際に常に優しく、あらゆる配慮をもって辛抱強く接してくれたことにあります。これまでもギャラリーや美術館での展示経験がありましたが、今回が最も信頼されていると感じました。なにも義務や応えるべき要望はなく、ただ制作をする機会が与えられました。『ただ制作できること』を特権とあえていうのもおかしな話かもしれませんが、これがアーティストにとっての労働において、非常に重要になってくるのです。
この数年間、大学を卒業する以前から、私はなにか終わりのないゴールに向かって走っている思いでいました。これは恐怖に近い心境でもあります。アートをつくるということは、終着地点を目指すことではなく、前進し続けることであります。ランニングに例えることができると思いますが、一度走るのをやめてしまうと、もう一度同じペースで走るのは難しくなります。とにかく走り続けることが重要であり、そうしなければ、これまで蓄積してきた労力を全て失うリスクを負うことになります。この夏は、スタジオと制作のための素材があり、安定的なサポートが保証されていたことによって、歩みを止めることなく作品づくりをすることができました。
ぼくのように若い作家には、安定した生活を保証する基盤はなく、毎日が自分の希望する道を脅かすチャレンジの連続であります。スタジオを保持するために、携帯電話や住居を諦めるというおかしな選択をすることもあります。そのような局面にほぼ毎日向き合い、とくについていない日は、アーティストを辞めて、安定のために他の職についた方がいいのではないかと自分に問うことがあります。そこで、このようなプログラムがとても重要になってくるのです。多くの場合、アーティストによる労働は労働とみなされないことがあります。絵画、彫刻など、最終的な作品や成果物はみなされるが、それは単に労働の証拠にすぎない。美術館やギャラリーへ行く、人と会話をする、本を読む、映画をみる、何日も寝ない日々をおくる、散歩をする、なにもせず一週間ただひたすら歩き回る・・・こうした作家にとって必要かつ重要な全ての行為は、じつに重労働です。本プログラムでは、このような労働が価値あるものとしてみなされていました。そしてそれは、非常に稀なことなのです。」
2014-5-27