TAS2020レポート:オランダ、フィフス・シーズン x dear Me対談「メンタルヘルスとアートの有用性」(2020年11月12日)
現代アートの教育プログラム「Total Arts Studies 2020」
dear Me ゼミ「見えるものと見えないものからアートとココロを考えるオンラインシリーズ:多様な当事者とアートの学び・体験を考察する」より
日時:11月12日(木)19:00-20:30
講師:堀内奈穂子(AIT、dear Me ディレクター)
場所:オンライン(AIT Zoom ルーム)
第3回目となる 「dear Me ゼミ」はオランダ、フィフス・シーズン(The Fifth Season)のディレクター、エスター・フォセン氏を迎えた対話形式のレクチャーでした。フォセン氏はdear Meプロジェクトの招へいで2018年に東京に滞在し、アーティストの和田昌宏氏を迎えてアートと精神を考えるワークショップを子どもと大人を対象に実施しました。
まず、フィフス・シーズンが団体として目指しているものとして以下の3つを提唱されています。
・アートが精神疾患を患っている人の幸福に貢献する要素を持っているということを信じている。
・社会と患者への橋渡しを行っていくことを団体として目指している。
・精神疾患を抱えた人々に対する偏見やネガティヴな先入観を払拭するイメージ作りをしている。
・アートと精神科医療施設の取り組み
設立から20年間アルトレヒト精神科医療施設の森の敷地内のアーティストハウスで活動していたフィフス・シーズンは、2020年に入りアムステルダム市内のBeautiful Distress House内に拠点を移しました。そこでは、展示やサマースクールを行ったり、最近では「精神病というものを我々はどのように受け止め対応しているか?」といったテーマで実際の病患とアートを学ぶ学生によるコラボレーション作品の展示を行いました。また、精神科の医師や医療従事者が患者をより理解するためのアーティストの視点を用いた教育システムも構築したといいます。
Beautiful Distress Houseは再開発エリアにあり若い人達で賑わう。
しかしながらコロナウイルス禍で文化セクターへの資金援助が大幅に削減され、経営が大変厳しい状況だという。
医療現場の限られた予算の中でどのようにより良く患者と寄り添えるか、アートの視点がどう有効であるか、またそういった議論は多忙な医療従事者のストレスケアにもなり得ると言います。
12月にオープンするAI(人工知能)とニューロ・ダイバーシティをテーマにした個展「PUK*」by-Flöris Schonfeld
AIというアルゴリズムの中に脳の多様性(考えや感じ方が違う人)を受け入れる領域は果たして存在しているのか?
・メンタルヘルスとアートの有用性
フォセン氏は、患者が施設内で医療従事者以外の外部の人(アーティスト等)とコミュニケーションをとる機会や、患者が率先して制作の手を動かしていく過程でより確かな自発的行為やクリエイティビティを再確認することが、患者のメンタルヘルスにポジティヴな効果をもたらすことを確信されているようです。
・ソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)の活動
既存のビジネスモデルへの適応が困難な精神疾患や脳の特性を持ったプロのアーティストに対して展示スペース(マネジメント等を含む)を提供したり、過去に精神疾患を患った人をチームメンバーの中に混在させ、お互いにサポートし合いながら仕事をすることもまたミッションであると言います。
講義後は医療関係者、福祉や教育の現場に従事するレクチャー参加者からたいへん多くの質疑が寄せられました。その中のひとつ、「患者が社会にどのような影響をもたらすのか?」といった質問にフォセン氏は今後、精神疾患を持った人がその経験を活用し私達が直面する憂鬱の乗り越え方のアドバイスをするという興味深いプログラムを考案されているようです。お話の中にもありましたが、脳の考え方や感じ方が違うだけの人を「患者」と呼ぶ(世間一般の)その言葉の在り方自体が問われるレクチャーでした。
豊田美緒
2020-12-11