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ペンワディー・ノッパケット・マーノン レポート

1)目的、興味のある分野

私は、2016年2月21日から3月26日まで、AITのレジデンス・プログラムに招かれ、東京に滞在しました。今回は、2008年に国際交流基金が主催したJENESYS(Japan-East Asia Network of Exchange for Students and Youths Programme/21世紀東アジア青少年大交流計画)のレジデンス・プログラムと、横浜美術館のインターンシップ・プログラムで来日して以来となりました。東京にはあらゆる場所にギャラリーや美術館があり、美術館の前には、入場を待つ観客の列が作られ、週末に行われる子供向けのワークショップは、参加者でいっぱいでした。空き家となった建物は、作品の展示やアート関連のイベントを行うオルタナティヴ・スペースとして、新しい団体や学生たちが使用していました。国際的な展覧会は、地元の人をはじめ観光客にも受け入れられ、しかるべきお金と時間をかけて、東京の人びとはギャラリーや美術館巡りを楽しんでいるようでした。東京では、アートが日常生活の一部に溶け込んでいるこのような光景が、私の出身国であるタイで見られることはまれです。アートの概念が広く認識されていないどころか、あまり受け入れられていないタイのアートシーンに比べ、このような東京の姿にとても魅力を感じていました。

二回目の来日当初は、以前のこうした経験を踏まえて、ユニークなアート集団、先鋭的なアートプロジェクトやスペースをリサーチしたいと考えていました。アートの分野で働く人や恊働する人材、公的な資金の援助が極めて限られているバンコクにおいて、画期的なプロジェクトをはじめるためのインスピレーションを見つけたかったのです。タイでは、多くの人が国内外の大学でアートを学んで卒業するにも関わらず、そのアートシーンに活気がない理由を考えながら、そこをどう発展させていくことができるのか、それが私の関心事でした。

2)滞在期間の活動・制作

8年ぶりに東京を訪れると、今回の滞在はアートプロジェクトやスペースを探すだけの単純なものにはならないだろうと感じました。というのも、その数は私が想像するよりもはるかに多く、また多様になっているように思えたのです。そこで、これまでバンコクと東京で培った経験をもとに、さまざまな場所とアートに携わる多くの人びとを再訪し、そこで何が起きているのか、私が持っている情報をアップデートしていきました。

代官山にあるAITのオフィスで、初めてのミーティング

横浜美術館で行われた子どものワークショップにて、山崎優さんと再会

国際交流基金にて、帆足亜紀さんによる日本の芸術祭、ビエンナーレ、トリエンナーレに関するトーク

六本木ヒルズ森タワーにて「Media Ambition Tokyo 2016」を鑑賞

3)旅行

東京で最初の2週間を過ごしたのち、広島の尾道市、香川の直島と豊島を巡り、「アジアン映画祭2016」が開催されている大阪への訪問を予定していました。しかし、タイで購入したJRパスが、私のビザでは使えないことと予算の都合もあり、行き先を岡山市と直島に絞りました。
岡山市では、精肉店を改装した多目的施設NAWATE内にあるとりいくぐるというゲストハウスに滞在しました。そこでは、主に資本の流入は市の東側に集中し、西側は住宅エリアとして留まっている現状を目の当たりにしました。そのため、この地域のアーティストやデザイナー、建築家が集まり、西側のエリアを再び活気づけようとしていることを知りました。改装した建物でイベントを開催したり、建物の一部をお店に貸し出したり、ゲストハウスの運営を通じて、地域のコミュニティ内で相互関係を築くことを目指しています。
その後に訪れた直島は、瀬戸内国際芸術祭 2016が開催される直前でしたが、自転車を走らせながら島中の作品を鑑賞し、充実した時間を過ごしました。

岡山市の西と東を駆け巡りました

4)取り組んだプロジェクト

上記の活動と旅行以外には、AITの主催で行われたイベント「Thai Art Nightー網目をくぐれ!タイの最新アート事情」にて、タイやバンコクにおける今のアートシーンについてトークを行いました。また、日本人アーティストの小鷹拓郎さんから誘われ、高円寺にある活動家によるスペースなんとかバーで、私と同じくAITの招聘で来日していたチェンマイ出身のアティコムや、他のレジデンスやリサーチプログラムでバンコクから来ていた友人らと一緒にイベントを行いました。沢山のタイ料理を振る舞い、売り上げはこれまでの記録を塗り替えた、と小鷹さんが驚いていました。

5)滞在で得たこと、今後の活動

34日間にわたる滞在では、東京の他にもさまざまな都市を巡り、日本の人たちが彼らの小さなコミュニティに変化をもたらそうと、共に努力している姿を目にすることができました。
そして、この滞在は、何がタイに欠けているかを明らかにしてくれました。それは、強固な土台です。対話や議論、社会的な交流の場において、自分とは異なる意見をひろく受け入れにくいというタイ人の気質が、その土台作りを難しくしていると言えます。というのも、このような不寛容さは、エチケットやモラル、何が適正かということに相反すると考えられているからです。そのため、恊働してアイディアを膨らませ、社会に変化を起こすために働きかけることが困難になります。これでは、みなそれぞれが置かれた環境の中だけで、自分の成長のみに関心を向けるようになってしまいます。多くのアーティストやキュレーターが、国外まで活動の幅を広げようとしている現代アートの世界においても、同じことが言えることでしょう。彼らは、種さえ持っていれば、それは自然に芽を出し、成長すると信じているのです。しかし、このグローバルな競争の時代において、良質な土壌の共有なしには、長期的な視点での成功は難しいのではないでしょうか。

最後になりますが、タイでは普段、自炊をしませんが、この滞在では、浅草の部屋で自分の料理の才能を新たに発見しました!

東京藝術大学取手キャンパス内にある小沢剛さんのアトリエを訪問

横浜にある黄金町アーティスト・イン・レジデンスプログラムでのオープンスタジオに参加

浅草の滞在先で料理も楽しみました



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