ケイティ・ウエスト レポート
グラスゴーのコーヴ・パークとAITのレジデンス・パートナーシップにより、日本に6週間滞在できたことは、素晴らしく良い機会であった。日本に関する一般的な知識はあっても、詳しくはなかったので、滞在中に見るものや訪れた場所に対して柔軟にアプローチしていくことにした。国や文化に関する先入観にとらわれず、カメラとノートを持って、美術館やギャラリー、興味のあるエリアを探検し始めた。
1)東京
東京は、効率的な移動手段や、ブレードランナー(SF映画)的な街の風景、ラーメン天国で知られる華やかで国際的な都市である。しかしながら、私は、現代の民芸と伝統的な民芸がどのように混じり合っているか、またアートの実践が、どのように日本の生活と融和しているかを知ることにもっと興味があった。
滞在場所となった巣鴨では、町の魅力を楽しみながら、快適に過ごすことができた。AITのオフィスや自分たちのスタジオなど、私たちが行く必要があったほぼ全ての場所にも、簡単にたどり着くことが出来た。
2)FOUND AND MADEワークショップ
ニック・エヴァンスとメアリー・レッドモンドと共に、2日間のワークショップを実施した。私たちは日本に来る前にグラスゴーで企画を考え、AITともメールでやりとりをし、東京に着いてから、求められていることやリソースの有無などをふまえて、より細かくプランニングをしていった。
AITスタッフはとても協力的だった。私たちが自由に企画やテーマを決められるようにしてくれたほか、素材の見つけ方を手伝ってくれるなど、一緒に考え、支えてくれた。これは、参加者たちにも理解されて、うまく伝わったのではないかと思う。
photo by: Yukiko Koshima
2日間のワークショップを通して、参加者たちは、短時間で彫刻を作るという難しい課題に挑戦した。途中には、個々のアイディアがどうやってプロジェクトに繋がっていくかを発表する時間もいれ、それぞれ興味深いプレゼンテーションが行われた。
ワークショップの最後になって、私は、参加者に多くのことを要求したように思えたが、皆、本当に一生懸命取り組んでくれたと思う。そこには、高揚感と賞賛、そして、全力を出し切った良い疲労感が感じられた。教えることと、参加者の能力をうまく引き出すことをバランス良く行えた。
photo by: Yukiko Koshima
最終的に、このワークショップでは、参加者は「作ることを通して考える」 実践を体験し、さらに展示を完成させるという、キュラトリアルな意味での決定も行った。 これらの実践的なワークショップが、今後のAITのプログラムを企画して行く中で、手助けになることを望んでいる。
3)仙台へ
津波が起きてから1年と少し後に、AITのスタッフと、インドネシアからのレジデンス・キュレーターのスジャッド・ダルタントと一緒に仙台を訪れた。私たちは、アート・スペースや、アート・プロジェクトの見学とともに、津波で流された小さなエリアや津波の際の住民の重要な避難場所になる神社へも足を運んだ。
・せんだいメディアテーク:志賀理江子の公開スタジオ訪問
せんだいメディアテークは、力強く活気がある場所で、幅広い年代の住民たちが訪れていた。私たちが訪れた際、地震・津波災害時と、瓦礫の撤去後の記録写真が展示されていた。これらの写真には文章が添えられており、理解しやすかった。まるで、自分たちも同じことを実際に経験したように感じ始め、報道番組を観ているような気持ちはなくなっていった。これは、AITの塩見有子が翻訳し、伝えてくれたことで、よりよく理解することができた。また、写真家の志賀理江子さんの公開スタジオが展示されていて、興味深かった。彼女の活動は、面白く、かつ社会的意義がある。
・仙台のアート・スペース、ビルド・フルーガス
このスペースのディレクター、高田彩さんに聞いた、実際に津波を目撃した話や、ギャラリーの主旨についての話は、興味深いものだった。
・「ホール・穴・会館」
長内綾子さんが、実践的なアプローチで震災から立ち上がろうとしている人々に対応していることに、大変触発された。彼女は滞在型の家屋を運営していて、被災者のために直接活動したい人が来て、そこに滞在することができる。
4)民芸運動
私はセラミックを学んだことがあり、民芸の伝統に大変興味がある。私と、同行したニック・エヴァンスは、1920年代から30年代に柳宗悦などが始めた民芸運動を探求している。私たちは、東京の民芸館と、京都の河井寛次郎邸を訪れた。
私はまた、柳の息子、柳宗理についても学び始めた。彼は商業デザイナーで、2011年に亡くなった。現在も製造されている彼の製品デザインを見たり、彼の家族や民芸館のメンバーと一緒に、民芸運動とそれに続く彼の商業デザインの関係性について話し合った。
5)グラフィックデザイン
銀座グラフィックギャラリー(ggg)を訪れ、ロトチェンコのグラフィックデザインを楽しんだ。この経験は、私を彼らの大阪のギャラリー(ddd)へと導いた。そこでは、田中一光のポスター展が開催されていた。これらのポスターは素晴らしく、過去数十年の、日本の文化的基盤を知る素晴らしい機会になった。
○今後の展望
私はアーティストであり、デザイナーであり、キュレーターでもある。自分自身のデザインワークについて、デザインと機能性を考えながらアイディアを出している。私が、今回見つけて学んだこと、そしてカメラとノートに記録したことが、自分の今後の仕事に包括的に表れていくことを願っている。
キュラトリアルな面では、柳宗理財団と民芸コレクションの管理者とのいくつかの成功したミーティングを持つことが出来た。私は、イギリスでの回顧展を準備することを熱望している。3年以内でこれを実現させたい。帰国後はグラスゴーにある、Scotland's Centre for Craft and Design のキュレーターに就任するため、この展覧会がグラスゴーで実現出来ることを願う。
日本の伝統文化や社会については、目に見えることと見えないこと両方の多くの発見があった、それは、これからの仕事や生活に多くのことをもたらしてくれるだろう。
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