キャロライン・アシャントル レポート
1)目的・興味のある分野
私は、カムデン・アーツ・センターの紹介を経て、AITのレジデンス・プログラムに招聘されました。当初は、具体的なプロジェクト案はありませんでしたが、日本のさまざまな伝統芸能や工芸、歌舞伎や能といった舞台芸術を鑑賞したいと考えていました。というのも、それらの面や衣装に大変興味をもっていたからです。
そのほか、日本のアニメーションに関しても研究したいと考えていました。とりわけ、宮崎駿氏/スタジオ・ジブリの映画作品における、現実と精神世界が交差する描写や、同じ登場人物の中に善と悪が共存する二元性に常に魅了されてきました。
その点で御茶ノ水は、アニメオタクやファンが集まる秋葉原にとても近く、素晴らしい滞在場所でした。都心でもなく、決して流行最先端とは言えない場所でしたが、徒歩や公共交通機関でいろいろな場所に行くには大変便利なところでした。また、近くには皇居があり、周辺でジョギングをしている地元のランナーと一緒に、私もランニングの習慣を始めることができました。
アパートは小さいけれどとても明るく、東京にスタジオがない私でも、ドローイングとコラージュのシリーズをこの部屋で制作することができました。
2)滞在期間の活動・制作
東京では、東京国立博物館や国立西洋美術館、根津美術館、国立近代美術館、日本民芸館など、多くの美術館や博物館を訪問しました。伝統的な芸術のかたちや質、表現方法にとても感銘を受け、また、美術(art)と工芸(craft)の厳密な区別がないことに非常に好感をもちました。
そのほか、三鷹の森ジブリ美術館(東京)やイサム・ノグチ庭園美術館(高松)、国立民俗学博物館(大阪)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川)、直島、豊島を訪れ、現代アートを鑑賞しました。
AITが企画してくれたギャラリーツアーでは、自分だけでは見つけられない場所に行くことができました。私が個人で行動するときは、日本の住所システムがあまりよく分からなかったため、地図で見つけられるような施設にのみ行きました。
SHIBAURA HOUSEでのイベント『At the Still Point of the Turning World...』は、私が日本に到着してから3週間後の開催だったのですが、鑑賞者の皆さんが興味深く作品を鑑賞し、大変興味深い質問を次々に投げかけてくれて、素晴らしい経験となりました。
同時期に滞在していたロンドンからのアーティスト、ジェシー・ワインと私は、カムデン・アーツセンターのジーナ・ブエンフェルドが企画したこのイベントでいくつかの陶芸作品を展示したいと考えていました。そのため、私たちは作品制作のための陶芸スタジオを探さなくてはならなかったのですが、それが意外に大変でした。イギリスに居る間、私は、特に日本は陶芸の分野においてかなり有名だったので、陶芸スタジオを見つけることは簡単だと思っていました。しかし、それは全く逆で、東京で自分たちの作品を即座に制作するための陶芸スタジオを見つけることは容易ではなかったのです。しかし、AITが尽力してくれたおかげで見つけることができ、私たちは8日間、江崎氏が代表をつとめる新宿にある陶芸スタジオ「新宿陶房」に通いました。そこで制作をしたこと、他の陶芸家と出会ったことはとても楽しい経験でした。英語を話す方がほぼおらず、私たちの日本語も全く意味を成していなかったので、最初はコミュニケーションに困ることもありましたが、私たちが毎日通い、午後のティータイムを一緒に過ごすうちに、会話を楽しむ瞬間を持つことができるようになりました。
3)旅行
5週間の東京滞在のあと、JRのレールパスを使い、2週間で京都、大阪、高松、直島、豊島を旅行しました。素晴らしい人々との出会い、そして、建築を見ること以外での、私の個人的な旅のハイライトは、大阪府の万博記念公園にある国立民族学博物館、通称"民博"にいったことでした。もうひとつのハイライトは、香川県にある、非常に可愛らしい丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を訪れたことです。
4)滞在で得たこと、今後の活動
現時点ではこのレジデンス・プログラムへの参加がどのように自分の作品制作に影響してくるのかは、まだ分かりません。けれども、日本に滞在したことは私に大きな影響を与え、ここにまた展覧会のために戻って来たいと強く思うようになりました。
滞在中に会うことができた人々のうち、とあるギャラリストとそのアシスタント、そして美術館のキュレーターとの出会いは大変実り多いものでした。初めて私の作品を見た人が、とても注意深く細部まで丁寧に鑑賞してくれることに驚きました。
私は、自分自身がアニミズムに興味があることと、日本人が古来から物体や石などに魂が宿ると信じていることに関連性を感じ、また、善と悪が共存するという、私の作品によく出てくるテーマである二元性も、日本人の精神世界に息づいているのではないかと強く感じています。
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