AIT Podcast vol.3:Art and Lockdown - 日本、ロンドンから「適応」を語ろう
2020年4月17日(金)にMAD生限定で開催されたイベント「オンライン ミングリアス Mingli-Zoom!」のトークを収録。(1時間29分)
- Art and Lockdown - 日本、ロンドンから「適応」を語ろう
現在、世界中で感染が拡大するCOVID-19の影響を受けて、国内でも外出の自粛が続いています。
そこでAITでは「オンライン ミングリアス Mingli-Zoom - Art and Lockdown - 日本、ロンドンから『適応』を語ろう」を行いました。
この混乱や行動制限の中、あらゆる場面と同様に、美術館の一時閉館や芸術文化事業が延期または中止せざるを得ないなどさまざまな影響が及んでいます。一方で、Google Arts & Cultureや独自のデジタルプラットフォームを活用した展覧会の開催やオンラインマーケットの始動など新たな動きもみられます。
イベントでは、AIT創立メンバーの中森康文と住友文彦、ロジャー・マクドナルドが日本とロンドンを繋ぎ、それぞれが携わる美術館や場の状況を共有、またその応答としての「適応」の工夫、芸術がこうした時にどのような意味を持つのか、今後の芸術・文化はどう変化していくのか、アートとロックダウンについて意見交換を行いました。後半は、刻々と変化する生活環境のそれぞれの場所での体験談をもとに、不安と苦労を乗り越える知恵や思いを参加者とともに共有しました。
スピーカー:中森康文(テート・モダン インターナショナル・アート写真部門シニア・キュレーター)、住友文彦(アーツ前橋館長)、ロジャー・マクドナルド(AIT、フェンバーガーハウス館長)
モデレーター:堀内奈穂子(AIT)
*今回のイベント内では、スピーカーの呼び名として以下を使用しています。
中森 康文(やす)、住友 文彦(ふみ)、ロジャー・マクドナルド(ロジャー)
[ キーワードやURL ]
- テート・モダン|Tate Modern:イギリス・ロンドンのテムズ川畔、サウス・バンク地区にある国立の近現代美術館。テート・ブリテンなどとともに、国立美術館ネットワーク「テート」(Tate)の一部をなしている。
- アーツ前橋|Arts Maebashi:群馬県前橋市にある公立美術館。美術を中心としたさまざまなジャンルの芸術を紹介していく芸術文化施設。
- マリア・ヴァルショウ|Maria Balshaw:現 テートギャラリー ディレクター
- フランシス・モリス|Frances Morris:現 テート・モダン ディレクター
- 『Tell them I said No』:2016年に発行されたマーティン・ハーバート(Martin Herbert)の著書。アート界から距離を置いた、あるいはアート界の構造と敵対的な立場をとるさまざまなアーティストにまつわるエッセイ集。ルッツ・バハー、スタンリー・ブラウン、トリシャ・ドネリー、デイヴィッド・ハモンズ、アグネス・マーティン、キャディ・ノーランド、ローリー・パーソンズ、シャルロッテ・ポゼネンスケなど。
- ロザリンド・E・クラウス|Rosalind E. Krauss:(1940- )アメリカのポストモダニズムを代表する美術評論家、理論家。
- レイナ・ソフィア:正式名称は、ソフィア王妃芸術センター|Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofía。スペイン、マドリードにある近現代美術館。ピカソの代表作《ゲルニカ》の常設展示がある。
- マーシャル・プラン|Marshall Plan:第二次世界大戦後に、当時のアメリカの国務長官ジョージ・マーシャルの提案によって推進された、ヨーロッパ諸国に対する復興援助計画。
- スペインかぜ| Spanish Flu (influenza):第一次世界大戦中の1918年(大正7年)に始まったH1N1型のA型インフルエンザウイルスによるパンデミックの俗称。猛威をふるった1918年から1920年までに当時の世界人口約16億人のうち5億人が感染し、4,000万(WHO)〜5,000万人(Crosby A. 他の研究による)の死者を出したといわれている。
- エドヴァルド・ムンク|Edvard Munch:(1863-1944) ノルウェーの画家。聖職者や知識人を輩出した由緒ある家系で生まれたが、5歳のときに母を、14歳のときに姉を結核で亡くし、幼い頃から死が身近にあった。スペインかぜを患い回復したと言われ、自画像を描いた作品《スペインかぜをひいた自画像》(1919年)がある。
- エゴン・シーレ| Egon Schiele:(1890-1918) オーストリアの画家。クリムトの弟子であり、20世紀初頭のポートレイト絵画で最も影響力のある人物として知られる。1918年にスペインかぜの犠牲となった。2018年に没後100年を迎えた。
- ヴァルター・ベンヤミン|Walter Benjamin:(1892-1940) ドイツの思想家。1936年に発表した論考「複製技術時代の芸術作品」は、写真や映画などの複製技術が、伝統的な芸術作品から「アウラ」をはぎとる過程を考察し、芸術と人間の関係がどのように変化したのかを論じた。
- エアロゾル|aerosol:化石燃料等の燃焼に伴って発生する微粒子。気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体。いくつかの異なった過程により大気中での光や熱のエネルギーの流れを変化させ、気温を変化させる効果をもつ。(出典:国立環境研究所 地球環境研究センター)
- 「アメリカン・エフェクト:アメリカに向けられたグローバルな視点1990-2003」展|「American Effect:Global Perspectives on the United States 1990-2003」:2003年にニューヨークのホイットニー美術館で開催された展覧会。50名(組)のアーティストが参加。キュレーターはローレンス・リンダー。参加作家のひとり、会田誠の作品「戦争画RETURNS」シリーズの《紐育空爆之図(戦争画RETURNS)》(1996年)が展示され議論を呼んだ。
- ヴァンダナ・シヴァ|Vandana Shiva :(1952- ) インドの哲学者、環境活動家、科学哲学博士。1987年に生物多様性や種子の保全、有機農業を推進する団体Navdanya(ナヴダーニャ)財団を設立。
- モンサント|Monsanto Company:かつて存在した、アメリカミズーリ州に本社のあった多国籍バイオ化学メーカー。2018年6月、ドイツの大手バイエル社 (Bayer) による買収・吸収が完了し、モンサントの企業名は消滅した。
- エクスペリエンス・エコノミー(経験経済)|experience economy:エクスペリエンス(経験)を重視する市場経済を示す言葉。顧客にとっての「体験」こそが、経済価値になるという考え。
- 内藤 礼|Rei Naito:(1961- ) 日本のアーティスト。パーマネント作品として2001年「このことを」 家プロジェクト・きんざ(直島)、また2010年には豊島美術館にて「母型」を発表。
- ジェームズ・タレル|James Turrel:(1943- ) アメリカのアーティスト。主に光と空間を題材とした体験型のインスタレーション作品を制作。
- エサレン研究所/エサレン協会| Esalen Institute、通称: Esalen:1962年にマイケル・マーフィーとリチャード・プライスによってアメリカ、カリフォルニア州ビッグサーに設立された心理学・ アート・ボディワーク・スピリチュアルな実践等の総合宿泊研修センター。
- アンナ・ハルプリン|Anna Halprin:(1920- ) アメリカの舞踊家、振付家。「ポストモダンダンスの母胎」(市川雅著『アメリカン・ダンス ナウ』より)として広く知られ、実験的な芸術が生まれるきっかけになった人物として多くのアーティストに影響を与えた。
- ザネレ・ムホリ|Zanele Muholi:(1972- ) 南アフリカ共和国ウムラジ生まれ、ヨハネスブルグ在住。南アフリカを拠点に活動するヴィジュアル・アクティヴィスト。黒人女性であり、レズビアンを表明しているアーティストで、特に黒人のLGBTQのコミュニティの人々を表現に取り入れた芸術活動を通じて社会的な意識変革を目指した運動を積極的に展開。2020年4月よりテート・モダンで開催予定の展覧会は延期となった。(instagram : @muholizanele)
- タクタイル|tactile:英語で「触知できる」「触覚的に感知できる」という意味合いをもつ形容詞。
- 《空のプロジェクト:遠い空、近い空》:アーツ前橋の野外看板を用いた廣瀬 智央による2013年の作品。ミラノ在住のアーティストと前橋市内の母子生活支援施設「のぞみの家」の子供たちが、お互いが見ている空の写真をやりとりした〈空の交換日記〉を通じて制作された。アーツ前橋での展覧会「地球はレモンのように青い」は休館に伴い会期を変更。
- 東洋文庫ミュージアム:国宝5点、重要文化財7点を含む約100万冊の蔵書を誇る、世界5大東洋学研究図書館の一つ。2020年3月末の休館中に、解説を中継する様子をニコニコ動画で生配信した。
(ニコニコ美術館)
- OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development):経済協力開発機構。欧米諸国、アメリカ、日本などを含む約30か国の加盟国によって、「世界最大のシンクタンク」として様々な分野の国際経済全般について協議することを目的とした国際機関。(参考:文部科学省ウェブサイト)
[ スピーカー・プロフィール ]
中森康文(テート・モダン インターナショナル・アート写真部門シニア・キュレーター)
米国ヒューストン美術館(The Museum of Fine Arts, Houston)写真部門キュレーター、ミネアポリス美術館写真ニューメディア部門長を経て、2018年10月より現職。ヒューストン美術館における2010年企画展覧会には1960年以降のコンセプチュアル・アートと写真の系譜を主題とした「Ruptures and Continuities: Photography Made after 1960」と石元泰博と丹下健三による1960年出版の共著「桂:日本建築の創造と伝統」に焦点を充てた「Katsura: Picturing Modernism in Japanese Architecture」がある。近現代写真及び建築に関するものに加えて、著作権と写真との関係に関する著作多数。また、これまでにハーバード大学デザインスクール、ニューヨーク近代美術館、コーネル大学などで講義を行う。米国ウィスコンシン大学ロースクール卒業 (ニューヨーク州弁護士)。2009年に、コーネル大学にて美術史博士課程を修了する。(博士論文「Imagining Cities: Visions of Avant-Garde Architects and Artists in 1953 to 1970 Japan」)
Photograph by Dan Dennehy, Minneapolis Institute of Art
住友文彦(アーツ前橋館長/東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科准教授)
1971年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修了。金沢21世紀美術館建設事務局、NTTインターコミュニケーションセンター、東京都現代美術館を経て、2013年より現職。「ヨコハマ国際映像祭2009」ディレクター、「メディア・シティ・ソウル2010」共同企画、別府現代芸術フェスティバル2012「混浴温泉世界」共同キュレーター、「あいちトリエンナーレ2013」キュレーターなどを務める。また、2006年にはオーストラリアでおこなわれた「Rapt!:20 comteporary artists from Japan」展、2007年には中国を巡回した「美麗新世界」展では、共同キュレーターとして日本の現代美術を海外へ紹介する。主な共著に、『キュレーターになる!』(フィルムアート社、2009年)、"From Postwar to Postmodern, Art in Japan 1945-1989: Primary Documents"(Museum of Modern Art New York、2012)がある。専門は戦後美術研究、及び美術と社会の関係。http://www.artsmaebashi.jp/
ロジャー・マクドナルド(AIT)
東京生まれ。イギリスで教育を受ける。学士では、国際政治学。修士では、神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)。博士号では、『アウトサイダー・アート』(1972年)の執筆者ロジャー・カーディナルに師事し美術史を学ぶ。1998年より、インディペンデント・キュレーターとして活動。「横浜トリエンナーレ2001」アシスタント・キュレーター、第一回「シンガポール・ビエンナーレ 2006」キュレーターを務める。2003年より国内外の美術大学にて非常勤講師として教鞭をとる。長野県佐久市に移住後、2013年に実験的なハウスミュージアム「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。また、国内初の英国式「チャトニー」(チャツネ)を生産・販売している。興味は美術史、絵画、変性意識状態、オーディオ鑑賞、踊り、山。AIT設立メンバーの一人。https://www.fenbergerhouse.com
2020-4-24