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ジェシー・ワイン レポート

1)目的・興味のある分野

私は、AITのパートナー機関であるロンドンのカムデン・アーツ・センターの紹介で、AITのレジデンス・プログラムに招聘され、来日しました。2014年に、カムデン・アーツ・センターの陶芸フェローとして携わる機会があり、その際、日本を訪問して全国に広がる陶芸の歴史についての調査研究をすることを希望していました。そのような日本の陶芸への興味に加え、日本の禅庭園や食文化、そして、ヨーロッパとは異なる日本人のコミュニケーションの取り方に関心を持っています。私は、谷崎潤一郎の小説「陰影礼賛」を読んで以来ずっと日本に魅了されてきました。また、村上春樹氏のファンでもあり、彼の著書の中で度々東京について触れていることも、日本への興味をかき立てました。私が、2012年にロンドンのLimoncelloギャラリーで行われた展覧会のディスプレイを制作した際には、京都の龍安寺から着想を得て、ギャラリースペースを遊歩道に囲まれた禅庭へと変容させました。そのため、日本への滞在の目的は、より良いアーティストになるためであることはもちろん、日本文化への知識をより深め、帰国後に自分の作品を通して人々に新しいアイディアを伝える方法を学ぶことでした。

2)滞在期間の活動・制作

日本滞在中は、主に日本の伝統を理解するためのリサーチや執筆、写真撮影、旅に時間を費やしました。古来の伝統文化の展示に注力している多くの美術館や博物館を訪問し、江戸時代の風習について学び、そして、いかに現在まで西洋に日本が紹介される機会が少なかったかを知りました。なかでも最も好きな美術館は、深川江戸資料館です。そこでは、1840年代の東京の町並みが再現され、通りを歩くことができます。さらに、家の中にはいり、実際に触れてみたり階段をあがったりすることもできました。これらの展示は、東京の歴史を魅力的に表現した、とても優れた方法だと思います。

滞在中の2週間は、新宿にある陶芸スタジオで制作をしました。私は、陶芸制作は、周辺環境との密接な相互関係が影響するということを皆さんにぜひお伝えしたいと思います!新宿は、その煌々と光るネオンと雑音で有名なところで、陶芸をするための場所とはお世辞にも言えません。新宿の雑踏のなかを歩き、静かな陶芸スタジオに入っていくことはまるで別世界で、それにより面白い思考プロセスが生まれ、最終的には自分がとても誇りに思える作品を制作することができました。

また、東京のSHIBAURA HOUSEにて、一日限りのイベントに参加しました。そこでは、自分の作品についての短いプレゼンテーションを行い、現代アートにおける陶芸の発展 −陶芸がどう位置づけられ、どう発展して行くのか− についてのパネルディスカッションに参加しました。このイベントは、AITが同時期に招聘していたカムデン・アーツ・センターのオーガナイザーであるジーナ・ブエンフェルドによって企画され、展示、パフォーマンス、トーク、上映を網羅し、イベントは大成功に終わりました。観客の皆さんのおかげで、雰囲気もよく、また展示されていた作品に関して、とても建設的な会話を繰り広げることができました。

3)旅行

また、私は信じられないくらい素晴らしい1週間の旅行を経験しました。ハイライトは、真言宗の総本山である高野山を訪れたことです。山は雪に覆われ、気温は氷点下でした。私が午前6時にお寺で読経する僧侶を訪ねたことからも分かるように、高野山は東京とは全く異なる時間で動いています。その後、私は四国の直島と豊島を訪れました。そこでは、素晴らしい現代アートの作品が、非常に洗練された方法で展示されていました。

高野山にて、雪の上の足跡

4)滞在で得たこと、今後の活動

私はこの滞在で得たことを、未だ自分の中で消化しきれていません。分かっていることといえば、日本に滞在したことによって、私自身がより整理され、忍耐強くなったという点です。多くの人々が小さな居住スペースに住みながら、都会で生活をしているという事実は、私に新しい考え方や佇まいに気づかせてくれました。ロンドンのスタジオに戻って来てからは、私は、小さなパーツを組み立てて構成される、より大きな陶芸作品を新たに制作するようになりました。戻ってから最初の個展は2015年7月にロンドンで行われました。この展示では、日本での滞在経験がどのように自分の制作、展示方法に影響してくるかを、自分自身で発見することになるでしょう。

奈良で見かけた樹

新幹線の乗客が被っていた YOLO帽子 (You Only Live Once)

美しい イッセイミヤケビル(東京)

京都にあった、壁面彫刻



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